東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1205号 判決
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【判旨】
二被控訴人は本件根抵当権設定契約における被控訴人の意思表示にはその要素に錯誤があるので無効であると主張するので先ずこの点について検討する。
官署作成部分の成立については当事者間に争いがなく、その余の部分については当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一九号証の一及び右本人尋問の結果中には被控訴人の右主張にそう記載ないし供述が存するが、右記載ないし供述は次に認定するところに照して措信し得ず、他に右主張を認めるにあたる的確な証拠はない。
即ち、<証拠>によれば次の事実が認められる。
1 被控訴人はかねて訴外福田三男から金員を借入れていた関係から同人の委託を受け、同人が訴外太田信用金庫(以下太田信金という。)との継続的取引契約に基づいて負担する債務を担保するため、太田信金との間で本件不動産について債権極度額一〇〇〇万円、順位一番とする根抵当権設定契約を締結し宇都宮地方法務局足利支局昭和四八年四月一七日受付第七九〇八号をもつてその旨の登記を了していること
2 しかるに福田三男は自己が会長を勤める北関東設備の資金に充てるため新たに控訴人から融資を得ようと考え、被控訴人に対し太田信金に対する債務を弁済して前記根抵当権を消滅させるから、本件不動産を担保として控訴人に提供するよう依頼したこと、被控訴人はこれを信じ福田三男が太田信金に対する債務を弁済することを条件に右申出を承諾するに至つたこと、そしてその頃福田三男は息子であり北関東設備の社長を勤める福田雅之、控訴人、被控訴人と協議の結果、福田三男は右約旨に従つて同人の太田信金に対する債務一〇〇〇万円を弁済して前記根抵当権を消滅させ、その登記を抹消すること、控訴人は福田雅之に対し金員を貸付けること、被控訴人は雅之の控訴人に対する債務を担保するため本件不動産について債権極度額一〇〇〇万円、順位一番とする根抵当権を設定することとの合意が成立したか、昭和四九年五月一一日右四名で再度協議の結果控訴人からの借入人を北開東設備とすることとし、同日控訴人は北関東設備との間において信用組合取引契約を締結し、福田三男、福田雅之、被控訴人は右契約より生ずる北関東設備の債務を連帯保証するとともに、さらに被控訴人は本件不動産について前記のとおりの内容の根抵当権設定契約を締結したこと、そこで控訴人は前記信用組合取引契約に基づいて北関東設備に対し、同日五〇〇万円、同月二二日五五〇万円を貸付けたが程なくその全額の返済を受け、さらに同年七月一五日二八五万円を弁済期同年一〇月二五日、同年七月三一日九三五万円を弁済期同年一一月二五日と定めてそれぞれ貸付けたこと
3 しかるに福田三男は被控訴人との前記約旨に反し太田信金に対する債務を弁済せず前記根抵当権を消滅させなかつたので、被控訴人は控訴人の度々の要求にもかかわらず本件根抵当権の設定登記手続をすることを肯じなかつたこと
4 そのうえ北関東設備が前2の合計一二二〇万円の債務の弁済をしないので控訴人は昭和五〇年二月宇都宮地方裁判所足利支部に対し同庁昭和五〇年(モ)第一八号をもつて本件不動産につき仮登記仮処分命令を申請し、同月二六日に発せられた右命令に基づき本件根抵当権設定仮登記をなしたものであること
5 ところで、前2記載の各協議に際し、控訴人の担当職員は、本件不動産の担保価値を、太田信金の根抵当権が存在しても、なお前記極度額一〇〇〇万円を十分担保し得るものと考えていたため、福田三男と被控訴人との間に、太田信金に対する債務の弁済及び右根抵当権の消滅についてどのような話合いになつているかについては、右債務が弁済されて根抵当権が消滅し、控訴人の根抵当権の順位が一番となるのであればこれに越したことはないとする以上の関心を有せず、従つて被控訴人に対し更めて福田三男との話合いの内容を問い質すこともなかつたこと、一方被控訴人は福田三男の言を信じていたため、控訴人の担当職員に対して、特にとりたてて、本件根抵当権の設定は、太田信金に対する債務と根抵当権を福田三男が消滅させることを条件とするものであることを告げることもなかつたこと
以上の事実が認められ、前示証人福田三男の証言及び被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆えすにたる的確な証拠はない。
しかして右事実によれば、被控訴人は福田三男が太田信金に対する前記債務を弁済し、その根抵当権を消滅させるとの言を信じて控訴人と本件根抵当権設定契約を締結したところ福田三男は遂にその言を実行しないのであるから、被控訴人が本件根抵当権設定契約の締結に当り所期したところと現実との間に喰違いの有ることは否定できないが、被控訴人がその所期するところを控訴人に明示して右設定契約に及んだことは認められないのであるから、被控訴人主張の錯誤は所詮右設定契約締結の動機について存するに止まるものというほかないものである。
従つて、被控訴人のこの主張は理由がない。
(川上泉 賀集唱 福井厚士)